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肥髙茉実
略歴
美術家/文筆家。東京都出身。2018 年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、卒業制作優秀作品賞を受賞。
同年よりウェブ版『美術手帖』ほか『i-D』『THE FASHION POST』『tattva』などで執筆。『She is』でコラム「孤島にて」連載。主な展覧会に 2020
年「静謐な光、游泳のかたち」(Sta.)など。
タイトル
Lost in Translation
からの本文
ある朝、夢日記の掲示板に「菫金剛鸚哥の羽根に抱かれる夢を見た」という書き込みがあった──その鳥は実在し、青く美しい貴重な命で、世界の富豪が一千万円で買うこともあるそうだ。いっぽう掲示板を下へスクロールすると、インドのスラム街の少女が「一回百円」の売春で生活を凌ぐニュースがリンクされていた。ディスプレイの内側には様々な時空間や視線が離散的に存在し、ネットサーフィンに耽るほど、自分がどこに接続しているのか時制がぼやけていく。翻ってインターネットの外へ目を向ければ、動物園の菫金剛鸚哥は飛べぬよう羽根を短く切り揃えられてしまっている。はて、世界の中心が価値そのものであるとして、人間の深層心理に根ざす価値の実態とはいかなるものだろう。現実とインターネットの往来のなかで、私はときどき「世界の中心(価値)」を見失い、同時に世界における自らのポジションも見失う。